ナカヨシのブログ

カードゲームと心理学

デッキ選択における認知的不協和理論について

本記事はCSや選考会などといった大型大会に出場される方ならば一度は悩まれた事があると思われる「このデッキをCSに持ち込んでもいいだろうか」といった所謂「デッキ選択」の悩みについて心理学的視点から考察を試みた記事となります。

今回は心理学の理論の1つである「認知的不協和理論」に焦点を当てどのような意思決定の過程を経てデッキ選択が行われるのかを捉えることとします。

 

さて、本記事のタイトルにも含まれている「認知的不協和理論」という言葉、多くの方にとってあまり馴染みの無い言葉ではないでしょうか。


どのような理論なのかを先に説明しますと
「個人の中の認知的要素に矛盾が生じている場合、その矛盾を解消しようと認知を変更しようとする」
という理論になります。
文章のみの説明では少々分かりづらい点もあるかと思いますのでギャンブルを例に挙げて説明しましょう。


ギャンブルを嗜むAさんの心の中に

認知1 ギャンブルは楽しい
認知2 ギャンブルはお金の無駄だ

という2つの認知が存在しています。

現在この認知1と認知2はお互いが矛盾している状態です。この矛盾が意識的であれ、無意識的であれ、Aさんはこの矛盾を解消しようとしています。
ではこの様に認知間で矛盾が生じているAさんは認知の矛盾をどのように解消するでしょうか?

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解決策その1:一方の認知を変えてしまう

解決策その1は一方の認知を変えてしまうことです。

例えば、

認知1の「ギャンブルは楽しい」という認知を「ギャンブルは楽しくない」と変更したり、
認知2の「ギャンブルはお金の無駄だ」という認知を「ギャンブルは儲かる」と変更してしまうことで、認知の矛盾は解消され意思決定がなされます。

 

解決策その2:新しい要素を認知に付け加える

解決策その2は新しい要素を認知に付け加えてしまうことです。

つまり、現在それぞれの認知が拮抗していることで矛盾が生じているのであれば、新しい要素をどちらかの認知に付け加え比重を増やすことで矛盾を解消してしまおうということです。

例えば、

認知1に「ストレス解消にもなる」と要素を付け加えたり認知2に「身体にも悪い」と要素を付け加えることで、どちらかの認知に天秤を傾けて矛盾という状態を解消するわけです。

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他にも様々な方法で人は意思決定を行うわけですが、本記事では割愛することとします。

 

では、ここまで認知的不協和理論についての説明をしてきましたが、これをカードゲームにおけるデッキ選択に当てはめるとどのようになるでしょうか。

先程のギャンブルの例をカードゲームにおけるデッキ選択に置き換えて考えてみましょう。

 

大型大会に持ち込むデッキを決めかねているBさんの心の中には

認知1 これまで使用してきたデッキを使いたい

認知2 このデッキは今の環境で勝つことは難しいかもしれない

という2つの認知が存在しています。

 

ここで先程説明した解決策1の「一方の認知を変えてしまう」を当てはめると

認知1の「これまで使用してきたデッキを使いたい」という認知を「使用デッキを変更する」と認知を変え使用デッキを変えるかもしれませんし、認知2の「このデッキは今の環境で勝つことは難しい」という認知は「環境が変動しているから今なら勝てるだろう」と変化し使用デッキを変えないかもしれないというわけです。

 

また、解決策2の「新しい要素を認知に付け加える」を当てはめると

認知1には「このデッキは作るのにたくさんお金が掛かったし」などと金銭的要素が付け加えられるかもしれませんし、認知2には「苦手とするデッキタイプの分布が増加している」などの要素が付け加えられるかもしれません。

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さて、ここまで例ということもあり少々大袈裟に認知の変動についての要素を書いてきましたが、ここで注目して頂きたいことは、デッキを変えた変えなかったといった意思決定による結果ではなく、意思決定に至るまでの認知の変化です。

 

デッキ選択において重要とされる要素は大会を楽しみたいという気持ちもさることながら、大会で良い結果を残すことではないでしょうか。

よって大会で良い結果を残すという目標において、どのようなデッキが多いのか、どのようなデッキが良い結果を残しているのかといった所謂「環境」を考慮しない主観的な判断や金銭的要因といった認知の変容の要因が個人に起因する意思決定は、目標に対して非合理的な判断であることが読み取れるかと思います。

 

また環境を意識していたとしても、デッキ選択において数回の成功体験や失敗体験が強く印象に残るあまりデッキ選択を行う上で認知の歪みが生じる場合があります。

この様な数回の成功や失敗に認知が大きく動かされ偏った意思決定を行ってしまう傾向のことを「プロスペクト理論」といいます。この理論については別の機会があれば記事を書きたいと思います。

 

以上の内容を踏まえると、自身の抱える認知の矛盾を解消することが必ずしも正解を導くとは限らないわけです。特にカードゲームが自分と相手といった対人を想定した遊びであることからも意思決定において「相手はどのように考えているのだろうか」といった対戦相手を考慮した上での意思決定は非常に重要な要素となります。

対戦相手や環境を意識してデッキ選択を行うことが大会で結果を残す上で必要な考えなのではないでしょうか。

 

まとめ

ここまでの内容をまとめると

・デッキ選択においてどのような判断でそのデッキを選択したのかを考える

・デッキ選択という意思決定においてカードゲームが対人ゲームという性質を考慮しない主観的又は非合理的判断が含まれていないかを考える

・デッキ選択において全体の事象から考慮すると非常に少数の特定の事例に注目し、認知が偏っていないか考える

の3点がデッキ選択において重要となる大まかな内容となります。

 

 

 

おまけ

 

では最後に半年程前からデッキ選択においてこの認知的不協和の状態に悩まされてきたNさんを例に挙げてみましょう。

これまでサンダードラゴンというデッキタイプを使い続けてきたNさんはこのままこのデッキを使い続けて良いものか悩んでいます。

認知Ⅰ サンダードラゴンを使いたい

認知Ⅱ サンダードラゴンはオルフェゴールに相性が悪く環境を踏まえると向かい風だ

 

ここでNさんが認知的不協和を解消するためにどのように認知が変化したかと言いますと

 

解決策その1 

認知Ⅱの「サンダードラゴンはオルフェゴールに相性が悪く環境的に向かい風だ」を「サンダードラゴンで結果を残している人もいる」と認知を変更する。

解決策その2

認知Ⅰに「サンダードラゴンを使いたい」に「サンダードラゴンというデッキタイプに対する理解は深いはずだ」と要素を付け加える。

 

様は明確なロジックを示さずに非合理的にサンダードラゴンというデッキタイプを選択し続けたわけです。それではCSの結果はどうなったでしょうか?

 

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あ゛?

 

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あ゛ぁ!?

 

おわり

 

参考文献

「フェスティンガーの認知的不協和理論に関する一考察」 阿部 敏哉 (1997)